2007年11月21日

鶏が先か、卵が先か。

今日はタクシーで帰った。

運転手のおっちゃんの喋りが、やたらとうまくて、しかも声もNHK藤井さんばりに通る声だったので少し驚いていると、仕事の話になった。

運:「毎日こんな遅いんですか?」

私:「はぁ、まぁこんなもんですね、通常は」

運:「それじゃ時間外(手当て)とか凄いんじゃないですか?」

私:「いまやそんなのどこも出さないでしょ? ウチも当然そう」

運:「そうですか・・・」

しばし沈黙が走ったが、ふと思い出したように、またおっちゃんが喋り始めた。

運:「でも今週は祭日があるし、休みが多いから幾分楽なんですか?」

私:「いえいえ。皆さんが休みの日は、かえっていろんな仕事が増えることが多くてね」

運:「え? そうなんですか? それじゃ大変だ。連休なんて取れないんですか?」

私:「正月以来、連続で休んだことないです」

運:「うわぁ〜、そりゃ凄いですね」

ここでまた沈黙が走り、もうこの手のネタは出てこないだろうと思ったが、またもや沈黙を破りおっちゃんは語った。

運:「この間神楽坂でフランス人のお客さん乗せたんですけど、聞いたら『一ヶ月のバカンスで遊びに来た』ってんですよ。国民性の違いとかあるけど、凄いですよね」

私は「あてつけか?」と一瞬思ったが、あまりにもいい声でうまい喋りで聞くもんだから、ついつい答えてしまった。

私:「いいですねぇ。でもそんなに休んだら、私はきっと職場復帰できないでしょうね」

運:「そうですよね。日本人には無理かもしれませんね。でもお客さんみたく働いてたら、当然有給なんて全部消化しきれないでただ潰れちゃうんですか?」

私:「まぁ有給なんてあり得ませんからねぇ」

運:「でも昔は、買い上げとかしてくれたんですけどね」

私:「あぁ、懐かしいねぇ。そういう時代もあったなぁ」

運:「今じゃ日本の企業でそんなのやってるところはないでしょう」

私:「うん。そうだよねぇ・・・」

また沈黙が流れた。某S社の入社したての頃、有給を始めて換金したときの明細を見た喜びを思い出した。

信号二つ分くらい走っただろうか。私はふと頭に浮かんだことを口走った。

私:「有給買い上げとか時間外をつけるとかやってた頃って、『この会社のために頑張ろう!』ってやってたじゃないですか?」

運:「はい、確かにそうでしたね」

私:「でもこれって、そういう制度がなくなったから、会社に対する帰属意識が薄れたのか。それとも帰属意識が薄れた結果、会社も社員に手厚く面倒みなくなったのか。どっちが先だったんでしょうね」

おっちゃんは、信号2つ分くらい考え抜いたが、答えは見つからなかった。私が続けた。

私:「仕事の場で心底信頼できる人間関係をつくるなんて話しは、もう古いんですかねぇ。今はどっちかってーと、仕事の場は仕事上の信頼関係でしかないような、そんな人間関係になっているような気がするんですけど」

おっちゃんは「そういう面はありますよねぇ」とだけ言い、目的地周辺で「この辺ですか?」と、またまた丁寧でよく通る声で聞いてきた。話が重くなったから早く降ろしちゃえ!とでも思ったのか、私もそういう空気を察し、少し歩く距離はあったものの車を降りた。

人間関係を重視しつつ、仕事上のやり取りができる関係が最も望ましいのは当然なのだろうが、いくら関係が良好に保てても、仕事ができなきゃ関係そのものがお荷物になることもある。しかし、逆に仕事は期待以上の働きをしてくれても、一個人として付き合える人柄でないと、単発ならともかく、長期間一緒に仕事を進めることは、これもまた苦痛になる。

さて、どっちが先だったのだろう・・・? あるいはどっちを優先すべきか?



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この記事へのコメント
 いつも多彩なお話をありがとうございます。
>いくら関係が良好に保てても、仕事ができなきゃ関係そのものがお荷物になることもある。〜
 こういうフレーズがサラリと出てくるところに、野口さんのきらめく知性を感じます。通り過ぎていくだろう日常の些事さえも、野口さんの語りを通して楽しく追体験させていただく事がしばしばですが、こういった発見には普遍性があり、感嘆します。また、楽しみにしてます。がんばってください。

 
Posted by りんりん at 2007年11月21日 08:52